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ニュースリリース

平成27年8月

インチンコウエキスにフィラグリン発現促進作用を確認

 佐藤製薬株式会社(社長:佐藤誠一)は、皮膚機能と生薬についての研究を進め、天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor; 略称NMF)の素となる「フィラグリン*1」の発現を促進する生薬エキスとしてインチンコウエキス*2を見出しました。(図1,2) さらに、インチンコウエキスは、Th2サイトカイン*3によるフィラグリン発現低下を抑制することを確認し(図3,4,5)、その作用機序は、転写抑制因子STAT6*4のリン酸化および核内移行を抑制する作用であることが確認されました。(図6,7,8)

 なお、本研究成果は、2015年7月25日・26日に開催された第33回日本美容皮膚科学会総会・学術大会 にて発表し、優秀演題賞を受賞しました。

1.研究の背景及び成果

 皮膚の代表的な加齢変化の一つであるシワの形成は、皮膚の乾燥による小じわ形成から始まると言われており、その対策として保湿の重要性が指摘されています。フィラグリンは、アミノ酸レベルまで分解されると天然保湿因子(NMF)として機能することから、皮膚の保湿、バリア機能に重要な役割を果たしていることが多く報告されています。さらに、アミノ酸であるヒスチジンから産生されたウロカニン酸(Urocanic acid; 以下略UCA)が紫外線を吸収することから、紫外線によるダメージを軽減することが報告されています。一方、近年ではフィラグリンの遺伝子変異がアトピー性皮膚炎の原因の一つであることが発見され、治療薬開発に向けた動きも出てきています。
 これらの知見より、シワ形成において天然保湿因子の保湿作用による小じわ形成の抑制とUCAの紫外線防御作用による小じわから大きなシワへの移行を抑制する可能性が考えられるフィラグリンを指標とし、フィラグリンの発現促進作用のある有用な素材の探索を進めました。

 その結果、約300種の植物エキスの中からインチンコウエキスに、フィラグリン発現促進作用があることを見出しました。また、Th2サイトカイン刺激によるフィラグリンの発現低下をインチンコウエキスが抑制すること、その作用機序がSTAT6のリン酸化、核内移行抑制であることを明らかにしました。
 これらのインチンコウの作用は、三次元培養表皮モデルの角層上にエキスを添加することでも確認されたため、インチンコウエキスは皮膚への外用でも角層を透過して効果を発揮することが期待されます。
 今後は、本研究成果をもとに、スキンケア製品の開発に応用していく予定です。

*1 フィラグリン:皮膚の表皮角化細胞で発現するタンパク質で、分解されてアミノ酸レベルで天然保湿因子や酸性アミノ酸として皮膚pHを弱酸性に保つ因子として働くほか、ケラチン繊維をコンパクトに凝集させることで角質細胞の形成に働くなど、多くの作用が知られており、皮膚の保湿機能、バリア機能の形成、維持に重要な役割を担っていると考えられている。また、近年ではフィラグリンの遺伝子変異がアトピー性皮膚炎の原因となることが報告され、注目を集めている。

*2 インチンコウエキス:生薬名 茵陳蒿(インチンコウ)として第十六改正日本薬局方に収載されている生薬。キク科植物であるカワラヨモギの成熟した頭花を乾燥させて得られる生薬で、茵蔯蒿湯、茵蔯五苓散などの漢方にも配合されている。

*3 Th2サイトカイン:2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)によって産生されるサイトカインの総称で、アレルギー性疾患との深い関係が知られています。近年では、Th2サイトカインによる刺激でフィラグリンの発現が低下することが報告されている。

*4 STAT6:Th2サイトカインの一種であるIL-4受容体の主要な細胞内シグナル伝達物質。IL-4シグナルによってリン酸化されると核内へ移行し、アレルギー反応に関わる因子の転写を誘導する。

インチンコウエキスによるフィラグリン発現促進作用

方法 表皮角化細胞および三次元培養表皮モデルの角層上にインチンコウエキスを添加して培養後、mRNA、タンパク質を採取した。mRNAはリアルタイムPCR法で、タンパク質はウェスタンブロッティング法で解析した。
結果

図1:インチンコウエキスによる表皮角化細胞のフィラグリン遺伝子発現促進作用

図1:フィラグリン遺伝子発現量

図2:インチンコウエキスによる三次元培養表皮モデルの
フィラグリン遺伝子発現促進作用

図2_1:三次元培養表皮モデル

図2_3:フィラグリン遺伝子発現量

インチンコウエキスを表皮角化細胞および三次元培養表皮モデルの角層上に添加した時、フィラグリンmRNAの発現が添加濃度依存的に有意に促進された。また、タンパク質レベルでも発現促進作用が認められた (data not shown)。

インチンコウエキスによるフィラグリン発現低下の抑制作用

方法 表皮角化細胞および三次元培養表皮モデルの角層上にインチンコウエキス(表皮角化細胞:36µg/mL、三次元培養表皮モデル:120µg/mL)を、培地中にIL-4/13(50ng/mL)を添加してフィラグリンの発現低下の抑制作用を評価した。mRNAはリアルタイムPCR法で、タンパク質はウェスタンブロッティング法および免疫組織染色法(三次元培養表皮モデルのみ)で解析した。
結果

図3:フィラグリン発現低下のインチンコウエキスによる抑制作用
(表皮角化細胞)

図3:フィラグリン遺伝子発現量

図4:フィラグリン発現低下のインチンコウエキスによる抑制作用
(三次元培養表皮モデル)

図4:フィラグリン遺伝子発現量

図5:フィラグリン発現低下のインチンコウエキスによる抑制作用
(三次元培養表皮モデル フィラグリン免疫組織染色)

図5:フィラグリン発現低下のインチンコウエキスによる抑制作用(三次元培養表皮モデル フィラグリン免疫組織染色)

文献等で報告されているTh2サイトカインIL-4/13刺激によるフィラグリンの発現低下を、インチンコウエキスが抑制することが確認された(図3:表皮角化細胞:mRNA, タンパク質 (data not shown)、図4、5:三次元培養表皮モデル:mRNA, タンパク質 (免疫組織染色, WB法:data not shown))。

以上の結果より、インチンコウエキスは皮膚への外用でも、角層を透過してフィラグリンの発現促進作用、発現低下の抑制作用を発揮する可能性が示唆された。

フィラグリン発現低下の抑制作用機序解析

方法 表皮角化細胞にインチンコウエキス(36µg/mL)およびIL-4/13(50ng/mL)を添加して、フィラグリンの転写抑制因子であるSTAT6のリン酸化および核内移行を、それぞれウェスタンブロッティング法、免疫蛍光染色法で解析した。
結果

図6:STAT6リン酸化のインチンコウエキスによる抑制作用

図6:STAT6リン酸化のインチンコウエキスによる抑制作用

図7:STAT6核内移行のインチンコウエキスによる抑制作用

図7:STAT6核内移行のインチンコウエキスによる抑制作用

図8:Th2サイトカインによるフィラグリン発現低下に対する
インチンコウエキスの作用点

図8:Th2サイトカインによるフィラグリン発現低下に対するインチンコウエキスの作用点

インチンコウエキスはIL-4/13刺激によるリン酸化STAT6(p-STAT6)の増加を抑制し(図6)、さらに、IL-4/13刺激によるSTAT6核内移行がインチンコウエキスによって抑制された(図7)。

以上の結果より、インチンコウエキスはTh2サイトカインであるIL-4/13によるSTAT6のリン酸化および核内移行を抑制したことから、フィラグリン発現低下抑制作用の作用機序は、STAT6のリン酸化抑制、核内移行抑制によるものであると考えられた。